『 桜 鬼 』
深い霧に包まれた湖
に 桜の古木があります
決して晴れることのない霧の包まれた 桜の古木です
桜の古木は まるで 処女雪のような花を咲かせています
尽きることなく花を咲かせ 散らし続けています
それは 妖しいまでに美しすぎる
桜の古木
です
ただ その桜は 毎年 同じ日に
針の先ほどの
紅
を溶かしたような
薄桃色
の花びらを散らします
深い霧に隠された湖
に 桜の古木があります
決して晴れない霧に隠された 桜の古木です
桜の古木には 一匹の鬼が宿っています
人を襲うこともなく ただ その桜を護っています
その鬼は 赦されぬ恋をした
鬼
です
鬼は 毎夜 ただ静かに
涙
を流します
涙
は 月の光のように白い桜の花びらとなって 散っていきます
深い霧に隠れた湖
に 桜の古木があります
決して晴れない霧に隠れた 桜の古木です
桜の古木の中には 一人の少女が眠っています
恋も知らずに この桜に その身を吊った少女です
その少女は
桜の鬼が愛した少女
です
少女は 自分のために涙を流す鬼のために
尽きることのない花を桜に咲かせ 散らしています
ただ 鬼の涙を止めたいために・・・・
死して 初めて 愛しい人と気付いた 鬼のために・・・・
桜の古木は 永い時をかけて 少女をその中に取り込みました
寂しい魂
を慰めるために
愛しい者
を抱きしめるために
毎年 少女がその身を吊った日に 鬼は
血
の涙を流します
己のために泣いてくれる 少女の流す涙に
少女を引き留め 悲しませる 己の憎さに 愚かさに
鬼の流す
血
の涙は
薄桃色
の桜の花びらになって 散っていきます
永遠に晴れることのない霧の湖
に 桜の古木があります
桜の古木は 尽きることのない花を咲かせ 散らしています
名も無き鬼と 少女の墓標となって・・・・・
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